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国家資格化。(05年6月)


2005年6月18日、梅雨時のこの時期、新聞にこんなニュースが載りました。

「カウンセラーの国家資格が新設される見通しとなった。」

一部の人たちには衝撃なニュースではないでしょうか(^^;)

記事によると、厚生労働省と文部科学省の2つの省庁の所管資格として「臨床心理士」を新設。病院や学校、裁判所や企業など、仕事の内容に関わらないものとしてこの資格を作るそう。大学院修了が資格取得の条件らしいです。

んでもって、病院を中心に「医師の指示の下」業務を行う人向けの「医療心理師」という資格も厚生労働省が新設。こちらは資格取得の条件を大卒とするそうです。

なんかややこしいな、という感じがしますね。何で似たようなことをやるのに2つも資格作るんだ、とか、突っ込みどころいろいろ。何でこんなことになったのか、といえば、それには「利害の対立」というおよそこの世界には似合わないもんが裏に潜んでいたりします。

例えば、現在の「臨床心理士」制度をやっている日本臨床心理士資格認定協会とか、日本臨床心理士会、日本心理臨床学会などの考えと、別のストリームで国家資格化を推し進めている「全国保健・医療・福祉心理職能協会(全心協)」の間の、かなり深い考え方の差とかがここに絡んでくるわけですよ。

結果的に、新しく作られる「臨床心理士」は現行の臨床心理士制度とほぼ同じようだし、「医療心理師」は学部卒が条件とか、全心協が提案していたもの、そのものっぽい。

つまり、双方の対立を収めることができなかったから一本化できなかった、という情けないポイントに帰結しまいそうです。厚生労働省が自らの研究事業の中で出した「医療保健心理士」というアイディアもボツってしまっていて、何でこんなことになってるんだろうなあ、という感じ。

もちろん、このように似たような制度を2つも存在させることは、本来は好ましいことではありません。現状のあっちこっちで作られているカウンセラーの資格を見てもわかる。あれこれあって、わけがわかんないことになってます。他の免許みたいに種別で分ける、等級で分けるとかじゃなくて、資格をまったく別々に作っちゃうなんて、特に、大人の事情でそんなことするのはもってのほかといえるでしょう。

そもそも、わけわかんないことになりつつあるから、国家資格化しようって話が出てきたんじゃなかったけ?

心理臨床家の立場をよりわかりやすくするための国家資格化じゃなかったっけ?

このままだとなんだか本末転倒って気がします。

現在、民間資格である「臨床心理士」の資格取得者数は11533人(2004年現在)。日本の人口を1億2千万人とすると、ものすごーく単純に考えて、1万人に1人は臨床心理士ということになります。1つの市町村に何人もの臨床心理士がいてもおかしくない時代なわけですよ、既に。

だけど、学校のカウンセラーは未だに非常勤だし、企業にカウンセラーがいるなんていうのもまだまだ珍しい。つまり、カウンセラーがまともに仕事になる時代じゃ、まだないわけです。

国家資格を作る目的の中には、こういう状況をできるだけ解消したい、つまり、ちゃんとした仕事として成り立たせていきたい、という考えもあります。言ってみれば、今はモラトリアムの状態だから、国家資格というのはかなり意味あるアイデンティティを獲得させよう、ということ。

でも、私、「資格作ったくらいじゃそれはできないんじゃないかなあ」と思ったりする。

精神科に行くことに乗り気でない人のほうが大多数でしょ、まだ。うつ病なんていわれたら、会社、クビにされちゃったりするし、「心のケア」とかみんなおっぴらにいうくせに、まだその辺、文化とか社会が追いついていない感じを受けます。当たり前ですけど、そういうものがちゃんとしっかりしてこないと、いくら資格ができても、今とあまり変わらない。つまり、まだまだ環境整備がいると思うのです。

現実、学校だって企業だって、カウンセラーを置くお金なんてないし、強いニーズだって、そんなにありません。「心のケア」にお金をかけるところなんて、そうそうないんですよ、まだまだ。そんなところにかけるくらいなら、他のところにお金をかけるケースのほうが多いでしょう。

労災としてうつ病などが認定されるケースが増えてきているようですが、524人申請、130人認定(2004年度)という数字を見てもわかるように、まだまだこれから(ちなみに、本筋からは離れるけど、労災で認められたその4分の1がシステムエンジニアやデザイナーなどの専門技術者というの、ちょっと気になるポイント。能力主義、成果主義とかいろいろあるからなあ)。

私のような、臨床とは全然縁遠い人間にはまったく関係ない話ですが、この資格を作る法律案、今国会中に提出することを目標に調整されているよう。これからしばらくの間、ちょっと流れに注目したいところですね。

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