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好酸球性消化管疾患(EGID)〜アレルギーセンターの取り組み〜
―アレルギーセンター ―

好酸球性消化管疾患とは?

白血球の一種である好酸球は、花粉症などのアレルギー性疾患において重要な働きをしていることが知られています。好酸球性消化管疾患(eosinophilic gastrointestinal disorders:EGIDs)は、食道・胃・十二指腸・小腸・大腸から構成される消化管のいずれかもしくは複数の部位に好酸球が入り込み、炎症を引き起こすことにより、飲み込みづらさ(嚥下困難)、胸焼け、胸痛、腹痛、下痢といった様々な消化器症状を引き起こす慢性炎症性疾患です。近年、従来の検査では原因が分からず、これらの症状が長期間続く患者さんの中に、好酸球性消化管疾患が原因になっている患者さんがいらっしゃることが明らかになってきました。

好酸球性消化管疾患は、好酸球が蓄積する消化管が食道である好酸球性食道炎(Eosinophilic esophagitis:EoE)と、胃・十二指腸・小腸・大腸のいずれかもしくは複数の部位である好酸球性胃腸炎(Eosinophilic gastroenteritis:EGE)に大別されます。

好酸球性食道炎の診断と治療

好酸球性食道炎では、好酸球が食道に集まり慢性的な炎症が引き起こされ、その結果として嚥下困難感や、胸焼け、胸痛などの自覚症状が生じます。病気の認知が高まるにつれて、近年患者数は増加しています。30代、40代の男性に発症することが多い病気です(参考文献1)。病気が進行すると、食事が詰まる感じが生じたり、実際に食道が狭くなる(狭窄)ことがあります。

診断の手順はまず、飲み込みづらさ(嚥下困難感)や食事が詰まる感じ、胸焼けを慢性的に自覚される患者さんに上部消化管内視鏡検査(いわゆる胃カメラ)を行います。検査の最中に食道の組織を採取し、その後に顕微鏡で観察する生検検査により、食道に好酸球が集まっている(好酸球浸潤がある)かどうかを確認します。厚生労働省の診断基準では上記の症状の存在に加えて、15/HPF(注1)以上の好酸球浸潤を(理想的には複数箇所で)認め、ほかの好酸球浸潤をきたす炎症性疾患が除外できた場合に、好酸球性食道炎と診断されます。日本では、健康診断や人間ドックなどで上部消化管内視鏡検査を受けた際に偶発的に発見される例が増えてきていますが、その中には症状のない方も少なからずいらっしゃいます。現在の診断基準では好酸球浸潤と症状の双方を認めることで確定診断となりますので、好酸球浸潤は認めるものの、症状を認めない、いわゆる無症候性の方は後述するような治療は必要ないと考えられています。

多くの好酸球性食道炎の患者さんにおいて上部消化管内視鏡検査で縦走溝と呼ばれる縦方向に数条の亀裂のように見える溝や、輪状溝といわれる蛇腹のような溝、さらに白苔と呼ばれる白い表面の変化といった所見が内視鏡検査でみられます(図1)が、これらの変化がみられないこともあります。このほかに、CT検査や超音波検査で、食道の壁の厚みが目立つ場合があります。

[図1.好酸球性食道炎に特徴的な内視鏡所見と病理所見 +]

図1.好酸球性食道炎に特徴的な内視鏡所見と病理所見

好酸球性食道炎の治療として、まず胃酸分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬が用いられ、これにより半数以上の患者さんで症状が軽減・消失することや組織中の好酸球数が減ることがみられます。プロトンポンプ阻害薬の効果が十分でない場合は、ステロイド吸入薬を飲み込む形での局所ステロイド治療が行われます。それでも症状が改善しない場合は、全身性ステロイドの内服や原因として疑われる複数の食材を除去する食事療法が行われます。食道狭窄が認められる場合はバルーン拡張という内視鏡治療が行われます。

海外ではアレルギー反応に重要なサイトカイン(注2)であるIL-4とIL-13を標的とした抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体(デュピルマブ)を好酸球性食道炎の患者さんに投与することで組織学的な改善、症状の改善が得られたことが報告されており(参考文献2)、臨床の現場で使用されています。しかし、現在、国内において前述の薬剤も含めて好酸球性食道炎に保険適用となっている薬剤は存在しません。近年、好酸球性食道炎の患者さんを対象としてアレルギー反応に関わるサイトカインを標的とした生物学的製剤の治験が国内においても進められており、慶應義塾大学病院でもその一部に参加しています。今後、国内における好酸球性食道炎に対する治療成績の蓄積が期待されます。

好酸球性胃腸炎の診断と治療

好酸球性胃腸炎では、好酸球が、胃・十二指腸・小腸・大腸のいずれかもしくは複数の部位に集まり慢性的な炎症を引き起こし、その結果として腹痛、下痢、嘔吐などの自覚症状を認めます。胃、十二指腸、小腸が最も好酸球浸潤の頻度が多い臓器です(参考文献1)。男性に多くみられる好酸球性食道炎と異なり、好酸球性胃腸炎の発症頻度には男女差はないと報告されています(参考文献1)。

診断の手順は、好酸球性食道炎と同様に、自覚症状が続く患者さんに、内視鏡検査や画像検査を行い、消化管もしくは腹水中の好酸球浸潤を検査で証明します。

上部消化管内視鏡検査(胃・十二指腸)や大腸内視鏡検査や小腸内視鏡検査(大腸・小腸)で生検検査を行います。20/HPF以上(注1)の好酸球浸潤が厚生労働省の診断基準となっておりますが、小腸や小腸に近い大腸では20/HPF以上の好酸球浸潤を認めることはまれではなく、結果の判断には慎重な判断が必要です。また、好酸球性胃腸炎では、好酸球性食道炎のような特徴的な内視鏡像を呈さず、内視鏡で非特異的な炎症所見(浮腫、発赤、びらん)や、粘膜所見が正常であっても、生検を行って好酸球浸潤を認めることで診断に至ることがあります。そのため、原因不明の繰り返す腹痛を呈する症例や過敏性腸症候群と診断されている症例の中にも好酸球性胃腸炎が潜在している可能性があります。

画像検査としては、CT検査や超音波検査を行って、腹水が貯留している際には、お腹から細い針を刺して腹水を吸引(腹水穿刺)し、腹水中に好酸球が多数存在することを証明します。また、CTスキャンで胃・腸の壁の厚みが目立つ場合があります。

そのほか、これまで喘息などのアレルギー疾患に罹患された既往や、血液検査で末梢血中の好酸球が増加していることなどを参考にしながら診断していきます。

好酸球性食道炎ではプロトンポンプ阻害薬や局所ステロイドが有効な症例が多い一方で、好酸球性胃腸炎は特異的な治療薬はなく、腹痛や下痢といった症状に対する対症療法が無効な場合に、ほかの免疫性疾患と同様に全身性ステロイドの内服や、原因として疑われる複数の食材を除去する食事療法を行います。

好酸球性消化管疾患は、患者さんの重症度や組織検査に応じて、医療費助成の制度が適応されることがあります。詳しくは、難病情報センターのホームページをご参照ください。

アレルギーセンターにおける消化管疾患の取り組み

アレルギーセンターの医師として、呼吸器内科、皮膚科、眼科、小児科と多様な専門領域の医師が多く在籍しております。好酸球性消化管疾患以外の成人食物アレルギーは、症状によって呼吸器内科と皮膚科が専門としており、原因によってアレルギーセンター内で適切な診療科と連携して診療体制を構築しております。詳しくは「あたらしい医療」の以下記事をご覧ください。

また、慢性的な消化管の不快な症状を引き起こす病気として、器質的な病変(血液や画像検査の異常)が認められない過敏性腸症候群や機能性ディスペプシアや、炎症性腸疾患をはじめとした消化管の慢性炎症があり、これらの疾患の可能性については、消化器内科の専門医師と連携して診療にあたります。詳しくは「病気を知る」の以下記事をご覧ください。

2018年9月に発足したアレルギーセンターは、アレルギーに苦しむ患者さんたちにより質の高い医療を提供すべく、複数の診療科の垣根を越えて引き続き取り組んで参ります。

【用語解説】

(注1)HPF
High power fieldは、高倍率視野を意味し、好酸球を20/HPF以上認める状態とは、400倍拡大で1視野に20個以上の好酸球がみられる状態となる。

(注2)サイトカイン
サイトとは「細胞」、カインは「運動」を意味するギリシャ語を語源とし、主に免疫細胞の増殖や分化に働きかけるタンパク質の総称である。

参考文献

  1. Comparison of Nonesophageal Eosinophilic Gastrointestinal Disorders with Eosinophilic Esophagitis: A Nationwide Survey.
    Yamamoto M, Nagashima S, Yamada Y, Murakoshi T, Shimoyama Y, Takahashi S, Seki H, Kobayashi T, Hara Y, Tadaki H, Ishimura N, Ishihara S, Kinoshita Y, Morita H, Ohya Y, Saito H, Matsumoto K, Nomura I.
    J Allergy Clin Immunol Pract. 2021 Sep;9(9):3339-3349.e8. doi: 10.1016/j.jaip.2021.06.026. Epub 2021 Jun 29.
  2. Dupilumab in Adults and Adolescents with Eosinophilic Esophagitis.
    Dellon ES, Rothenberg ME, Collins MH, Hirano I, Chehade M, Bredenoord AJ, Lucendo AJ, Spergel JM, Aceves S, Sun X, Kosloski MP, Kamal MA, Hamilton JD, Beazley B, McCann E, Patel K, Mannent LP, Laws E, Akinlade B, Amin N, Lim WK, Wipperman MF, Ruddy M, Patel N, Weinreich DR, Yancopoulos GD, Shumel B, Maloney J, Giannelou A, Shabbir A.
    N Engl J Med. 2022 Dec 22;387(25):2317-2330. doi: 10.1056/NEJMoa2205982.

文責:アレルギーセンター
執筆:三上洋平、正岡建洋

最終更新日:2024年5月1日
記事作成日:2024年5月1日

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