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知覚研究


知覚を心理学ではどうやって研究しているのか、これが今回のテーマです。

知覚研究にはさまざまな手法が使われますが、実験をベースに考えると、その伝統的なものに「精神物理学的測定」があげられます。

これはフェヒナーによってはじめられた「精神物理学」というものをベースとしているんですが、そこら辺の詳しい話は「心理測定法」でやるとして、ここではその基本的なことを書きましょう。

まず、知覚研究ではよく「どのあたりから刺激を感じるか」というのを見るために、「閾(いき)」というものを測ります。

閾には絶対閾(または刺激閾)と、弁別閾(または増分閾)の2つがあり、絶対閾が感覚が生じるポイントとして、弁別閾が前との変化を区別できるポイントとして測定されます。

たとえば、手のひらに小麦粉を1グラムずつ乗せていくとします。ここで、9グラムまでは何も感じなかったけど、10グラムにした途端「重さがある」と感じた場合、この10グラムという値が、重さに関する絶対閾です。

そして、このあとも実験を続けて、15グラムになったとき、10グラムのときとは明らかに重さが違うなあ、と思ったら、この差5グラムが弁別閾の値ということになります。

この弁別閾には「重量と弁別閾値の間の比は一定(ΔW/W=一定)」というウェーバー則が成り立ち、フェヒナーはこれを発展させて「感覚の大きさは刺激の強さの対数に比例し増大する(E=K*logS)」という法則を生み出しました。この法則が知覚研究に与えた影響は大きく、今の実験的な心理学全体にも大きな影響を与えています。

これら閾以外にも、「この2つ、同じだ!」とわかるポイント、たとえば、右手と左手、両方に乗せた重りが同じだと思うときの、それぞれの重りの重さ、これを主観的等価値、通称PSEと呼び、大学でもよく「ミューラー・リヤーの錯視図形実験」という形でお見かけします(この実験については「心理測定法」の1回目を見てください)。

これらは結局、ヒトの感覚についての「ものさし」を研究しています。たとえば、どの値で一番錯覚がおきやすいか、とかそういうものを研究しているわけですね。

閾値やPSEを測るためには、被験者が実験条件を変える「被験者調整法」、実験者が変える「実験者調整法」、条件を変えながらベストポイントを探す「上下法」、条件を極限状態からはじめる「極限法」などがあります。実際にはそれぞれを組み合わせ、たとえば、さっきの「ミューラー・リヤーの錯視図形実験」の場合、「実験者が」「比較対象を伸ばしてから」被験者に渡す、という調整法と極限法を組み合わせたやり方が、結構有名です。

これらのほかにも、主観的なものさし、たとえば、明るくなったなあとか、音が大きくなったなあ、のようなものを測る実験もあります。

この代表的な手法は「スティーブンスの精神物理学的測定」で、これはたとえば明るさなら、「今見ている明かりから10だけ強くしてください」のように提示し、明かりの調整目盛りを回させる「マグニチュード表出法」などといった形で測定します。

実際、スティーブンスはこれを用いて実験を行い、「刺激の強さと、それに対応して起こる感覚での反応量の間には、どの感覚でも一定のべき関数が成り立つ」ことを見い出しています。これもまた知覚心理学の教科書には欠かさず載るほど重要なものです。

このほかにも、聴覚研究などでは「信号検出理論」というものを使って実験したり、かなり生理学よりな分野では、f-MRIやPETといった、医療機器を用いて実験したりと、知覚研究では本当にさまざまな方法が使われています。

ただ、このように書いたところであまりにも理論的でつまらないので、この前新聞で読んだ「聴覚の錯覚」についての実験を紹介しましょう。

研究の舞台は東京都立大学。被験者はそこの学生、10人です。

この実験では、パソコンの画面を使って、自分のほうに近づいてくる正方形を2秒間見せました(つまり、ウルトラマンが出てくるときのアニメみたいな感じです)。それを60回ほど繰り返し見せ、一定の音量の音を聞かせたところ、なんとその音がだんだん小さくなると報告したのです!

もちろん、これとはまったく逆の条件、つまり、自分から離れていく正方形を見せる、という実験もされています。この場合は、だんだん音が大きくなった、とのこと。

これらからいえることはまず「視覚は聴覚よりも優位に働く」ということです。そうでなければ、聴覚と視覚は別々の次元で働きますから、このような現象は起きないでしょう。

もうひとついえることは、「残効」という視覚現象が聴覚にも影響を与えているのでは、ということです。残効というのは、単純にいえば、ずっと落ち続ける滝を見た後に静止した景色を見ると、滝とは逆の方向、つまり上に動いて見える、というような現象のこと。

この場合、大きくなる図形です。そして、それを繰り返し見た直後に音を聞いた。それが、小さくなるよう聞こえてしまう。まさにこれは、残効の考え方です。

書いてみるとたいした実験じゃなさそうですが、これはイギリスの超有名科学雑誌、ネイチャーで発表されたとのこと。つまり、心理学だけじゃなくいろいろなところに影響を与えるような研究なのです。

このように知覚研究というのはまだまだ基礎的なことで山ほどのテーマがあります。一度、何か考えてみると面白いかもしれませんよ。

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