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精神分析的アプローチ


人格心理学のみならず、心理学、精神医学などさまざまな分野に影響を与えたのがこの精神分析理論です。ここでは、そのうち人格の理解にかかわる部分について取り上げます。

この理論を作り上げたのはかの有名な精神科医、シグムント・フロイトです。彼はフランスで精神科医としてヒステリー、今の言葉で言えば不安症状の治療に当たっていました。ちなみに、ここで言うヒステリーとは、脳の器質的な問題はないのに心因性健忘が起きたり、運動障害、知覚障害が起こる障害のことであり、神経症とか、心身症といえるものです。現代でいうところのヒステリーではありません。

彼は無意識の心的過程がヒステリーに影響を与えていると考え、その中で「防衛」と「抑圧」という2つを打ち出します。このうち防衛とは自分の心の状態を無意識が守ること、抑圧とは実際には受け入れがたい考えを無意識の中で押しとどめて、そのための情動を意識から追い出すことを指します。フロイトはこれに基づき、ヒステリーは耐えがたい考えから身を守ろうとして、ある程度の考えを抑圧するために起こると考えました。

ヒステリーが運動障害になったり、知覚障害になることは「転換」が起きるからだ、とフロイトは説明しています。この転換とは、抑圧され追い出された情動が体のほうに移動することを指し、たとえば、においの幻覚が起きるとか言うことは、その前の体験に何かのにおいが一緒に体験されたために、その体験を思い出すと、においまで結びついてくる、だから幻覚になる、と考えたわけです。

そして、このような考えを確立するために、人格理論を組み立てあげます。このベースにはフロイトが学んだシャルコーらの「無意識」の考えがかなり生かされました。

フロイトは最初「無意識、前意識、意識」という三層構造を考え出します。この中で意識は日常感じ取れるもの、前意識は非常に努力をしないと感じ取れないもの、無意識は決して感じ取れないものとして、無意識を広大な領域に、意識を狭い領域として考え出しました。

しかし十数年後、それに満足できなくなって、いわゆる「イド、自我、超自我」が構成する人格理論に変更します。

[フロイトの精神分析理論+]

この理論ではイドと超自我が無意識の部分です。ちなみに、イドは「id」と書き、英語の「identity(アイデンティティ)」だの「identification(身分証明書)」のもととなる言葉です。フランス語としてエス(es)と呼ぶこともあります。

イドには口が開いていて、そこから「あれがしたい」「これがしたい」という欲求がやってきます。そしてその欲求を満足させるために、イドは現実をとりあえず無視して、その場にあるものを手に入れようとする快感原則に従います。「心理学の基礎」編で「隣の人から物を奪ったって手に入れようとする」と書いたのはこの部分です。また、それが達成されないときはそれを満足させるのに十分なイメージを作り上げる一次過程を用います。

このイドでは本能、性、攻撃といった衝動、そのすべてが起きます。このため、そのためのエネルギー貯蔵庫と考えることが出来ます。また、このイドには抑圧されたものを多く含んでいるとされます。

フロイトはこの中でも特に性衝動について取り上げ、それを「リビドー」と名づけていろいろな考えに活用していきました。ヒステリー患者の多くが性的な外傷体験を持つことに着目したのもそこにベースがあります。

さて、このイドの上に存在し、無意識、前意識、意識すべてに関わるのが「自我 ego」です。自我はイドからの欲求を現実に合った形に直す役割(現実原則に従うといいます)や、その欲求をかなえるために必要な行動(たとえば、プランを練るとか)を現実に則して作り上げたりします(これを二次過程に従うといいます)。

また、自我は防衛をコントロールします。防衛にはさまざまな手段があり、それを一般には「防衛機制」と呼びます。この防衛機制は危険が迫ったときに行われますが、そのきっかけとなるのが「不安」です。ですから、防衛といっても現場にあわせるという適応の面も含まれています。いくつか代表的な防衛機制を示しましょう。

代 表 的 な 防 衛 機 制
抑圧 受け入れがたい観念やそれに伴う情動を意識から追い出し、無意識にとどめておくこと。ただし、抑圧されたものは再び現れようとするから、そのために抑圧が強化されたり、ほかの防衛機制が使われることがある。
否認 受け入れがたい現実を知覚しないよう拒絶すること。これにより知覚の空白が生まれ、その間は願望充足的な知覚が埋めることが多い。例えば、恋をしていた女性がふられたのにもかかわらず、前と同じように彼がいてくれるなんていう夢物語の中で生きているときなんかがこれ。
投射 受け入れがたい自分の衝動や情動を、他人の中に認めること。内にあるものを外に出すという機制で、妄想形成などによく用いられる。例えば、激しい憎しみを抱いているのに、その他者が憎しみを持っていて、それが自分に向けられているんだ、なんて考えるときがこれ。これは嫉妬妄想につながる。
同一化 投射の反対。外にあるものを内に入れる考えで、他者の人格特性などを自分のものとして獲得することを指す。自分にとって大切な人を失ったとき、その人のもっていた何かを身につけることによって安心する、なんてのがこれ。
置き換え 衝動の対象やその充足方法をほかに向けること。例えば、母親を憎んでいる人が、それに似た権威の象徴である自分の上司を憎む、なんて場合がこれ。これは精神分析療法を実施しているときに起こる転移とは別物。

自我はこれらの防衛機制(あるいは適応機制)を使っていろいろな場面を乗り越えるわけですが、この上にはさらに「超自我 super ego」が働いています。

超自我はいわば相談役であり、法律家で、禁止をさせる役割があります。自我は計画を立てて満足を延期させたわけですが、超自我はそれ自体を否定し、禁止するのです。自我がこれに従わなければ、超自我が自我と対立することになり、自我に罪悪感が生じます。

フロイトはこの超自我を発達によって獲得するものとし、これは自分の両親や社会的ルールなどを自分の中に取り入れることによって出来上がるんだ、としました。フロイトの発達理論については「心理学の基礎」の「発達」の回を見てください。

フロイトはこの人格理論に基づいて、精神分析療法を作り出します。この療法での最大の目標は、この抑圧された無意識を意識化して洞察し、自我を拡大し、強化することでした。そしてそのための手段として「自由連想法」を生み出されるのです。このことについては「臨床心理学」の「精神分析療法」の回で詳しく触れようと思います。

このように精神分析理論は「人格」「発達」そして「臨床」がすべて絡まって、ひとつの理論になっています。そのため、非常に大きな理論です。今回はその部分の基本的なことについて、触れてみました。

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