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公理論的測定論


「ココロ」というなんだかよくわからないものからほんとにデータが取れるのか。このことについて、測定値の存在条件から考えるのがこの公理論的測定論です。ちなみに「公理」とは、直感的に明らかな前提条件の集まりのこと。この理論は言ってみれば、心理量というデータが取れることを後ろから支える理論といえるでしょう。

心理測定の場合、データが得られたとしても、その得られたデータが一体何を示しているのかよくわからないことがよくあります。これは心理測定によって得られるデータ、つまり、心理量(=心理尺度)が、物理的な長さだとか、重さのようなものと違って、足したり引いたりできない「内包的測定値 intensive measurement」だから。ちなみに、そのような計算ができるものは「外延的測定値 extensive measurement」と言います。

しかし、では、心理量というのが存在しないのか?というと、今の心理学ではそうは考えません。心理検査を実施すれば、それなりのデータが取れると考えられていますし、実験を行ってデータを取るなんてのは当たり前に行われているわけです。

では、一体どのような条件であれば心理量というのが成り立つのか、そして、どのような心理量がありえるのか、それを理論的に考えてみましょう。

まず、前提条件を考えてみましょう。そうすると、

1. 同じ事物は同じ、違う事物は違うと定める。つまり、分類することが可能である。
2. ある基準に従って、2つの事物を比較し、どちらが優越するか(より〜である)が決められる。
3. 数えられる。
4. 併合できる。

このようなものが成り立てば、いわゆる「尺度」が成り立つといえるでしょう。

しかし、このうち「4. 併合できる」は心理量では成り立ちません。それは先ほども述べたとおりです。元のままでは、足したり引いたりなんてできないわけですね。そこで、カテゴリー化したり、順位付けたりすることで、四則演算(加減乗除)ができるものにしようとします。

例えば、ある人から「とてもあてはまる」という答えが得られたとします。でも、このままでは、足し引きなんてできません。ただの言葉ですから。そこで、こいつに「5段階評価の『5』=『とてもあてはまる』である」と、この「とてもあてはまる」に数字を当てはめてみましょう。そうすれば、あとはいかようにも処理ができます。

このようなカテゴリー化をしたものは、ただ名目上、その値が付いているだけで、その値に深い意味はありません。このような尺度を「名義尺度」といいます。例えば、スポーツ選手の背番号とかがそう。

この尺度で重要なのは、ある番号があるものに当てはめられたのなら、その番号はもう二度と使われない、ということです。もしその番号を当てはめるとしたら、そのものをその場から外す必要があるわけです。その上で、改めて別のものにその番号を当てはめる。別の言い方をすれば、1対1対応の変換ならすべてが許される、ということです。

さて、尺度にはまだまだいろんなタイプがあります。例えば、地震の震度のように数字の順序に意味があるものがあります。このようなものは「順序尺度」といいます。かけっこの順位とか、そういったものがこれにあたります。

この場合、ある順位とある順位の間にはどんなに差があっても構いません。震度1が震度2になったからといって、揺れの大きさが2倍になる必要はないです。かけっこで1位と2位の差が2秒だからといって、3位と4位の差も2秒でなければならない、ということはありません。

この名義尺度と順序尺度の2つは、質的なものを表す尺度といえるでしょう。

これに対して、温度のように、0度と100度の間を100等分して1度と決めるようなものを「間隔尺度」といいます。

ここで重要なのは、0度とか100度というのはあくまで、便宜的なポイントでしかなくて、それ自体には意味がないという点。例えば、セルシウス度(摂氏)の場合、100度は1気圧で水が水蒸気になる温度なわけですが、でも、同じ100度でも華氏では全然違うことを意味します。このように、そのポイントはあくまで「そう決めたからそうなんだ」ということでしかありません。これが間隔尺度の特徴。ちなみに、「摂氏から華氏への変換」(具体的に言えば、F=9/5C+32)のような線形変換が間隔尺度では許されています。

この温度も、「絶対温度 absolute temperature」(単位で言うと「ケルビン K」)になると話は変わります。「絶対零度 absolute zero」=原子の振動がなくなる温度、と厳密に定義される(ちなみに、量子力学の視点で言えば、不確定性原理があるもんで、原子の振動は止まっていないはずなんですけど)この温度を用いた場合、その絶対零度は原点と評価できます。そして、それから1度ごとに目盛っていくこの尺度は、計算でも何でもできる尺度「比率尺度」と考えられます。

心理学で扱う心理量、例えば、感覚のデータとかそういうのも、基本的には比率尺度と考えられています。

このような尺度の違いは、結構重要なことです。例えば、代表値の取り方の違い、なんてので少し考えてみましょう。

背番号の値のような名義尺度の場合、その値をまとめて、平均を取るなんてことをしても意味がありません。こういう場合は、どの値が一番よく出てくるか、つまり、「最頻値 mode」を取って、それに値を代表させたほうがいいわけです。しかし、順位のような順序尺度の場合、全体の値を代表させるとしたら、全体の真ん中の値、つまり、「中央値 median」を取ったほうがいいでしょう。このように、尺度の違いによって、値の代表のさせ方も異なってきます。

ちなみに、間隔尺度だとしたら、その値は算術平均を取ったり、標準偏差を取ったりすることができます。比率平均になれば、幾何平均を取ることだってできます。これは計算が可能だから。名義尺度や順序尺度は計算が不可能ですから、このような方法を取ることはできません。繰り返しますが、尺度の違いによって、扱いが異なってくることに注意をしましょう。

最後に、具体的な例として、実際に間隔尺度をどうやって得ればいいのか?ということを考えてみましょう。この一つの方法が、「コンジョイント測定」です。これは、測定対象x、y、そのxとyの効果の尺度値f(x,y)をz(zは0以上の実数)としたとき、

1. 二重消去性(xとyがzとの関係において交互作用を持たないための条件)
2. 可解性(zとxがあればyを導ける。zとyがあればxを導ける、という数学的仮説)
3. アルキメデス性(無限に大きな尺度値の差は存在しない)

この3つが満たせるように測定するというお話。これを話し出すと結構難しいので、ああ、そうなんだとだけ理解しておいてくれればオーケーです。

ということで、今回の話は心理測定を裏から支持する理論についての話でした。

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