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知的能力の測定


知能、すなわち、知的能力の定義は実にさまざまで、場合によっては150以上もあるとされます。今回はその知能の測り方と実際をお話します。

まず、そのたくさんある定義の中で、総まくり的なのはこんなのでしょう。

・知的能力とは、問題解決のために必要な推理判断能力であり、そのために必要な情報処理能力であり、広く適応のために発揮される能力であり、経験によって学習する能力とも考えられる。

……わかりにくいですが、これが知能です。ある人は公正な判断ができることを知的といったかと思えば、別の人は一所懸命勉強している人のことを知的といったりする。そんなものですから、知能というのは大変わかりにくいのです。

心理測定の立場でも、定義が漠然としているものは測りにくいといえます。とはいえ、歴史的にさまざまな手段で知的能力は測定されてきました。

最初のころはえてして、物理的なものを用いることが多かったようです。たとえば、スピッツカは頭が重い人は頭がよいということでそういう観点から調べてみたり、メンタルテストという言葉の創始者、キャッテルは感覚の鋭敏さや握力、反応時間などから知的能力を求めています(ちなみにこれらの方法は、後に出てくる相関係数がほぼ0のため、今では使えないと考えられています)。

現代につながるテストが最初にできたのは、ほぼ今から100年前、1905年のことです。特別な教育が必要とされる人(たとえば、知的障害があるなど)を判断するためにビネーが作成したもので、現在でもこの流れを汲む知能テストが使われています。

このテストでは年齢別に課題を与え、それができるか否かで被験者の発達年齢、つまり「精神年齢 Mental Age, M.A.」を判定します。課題はその年齢の人ならほぼ確実に解けるようなものを集めてあります。また、テストの目的が教育、ということからもわかるように、その対象年齢は3歳から13歳までとされています。

このテストの与えたインパクトは非常に大きく、テストそのものも戦争などをはさんで発展していきます(特に集団で心理検査が行えるようになるなど、貢献が大きい面がある)。しかしその逆に、ビネーの思惑とはまったく違う方向にもこのテストは動いていきました。

このきっかけはシュテルンが導入した「知能指数 Intelligence Quotient, IQ」です。知能指数は精神年齢と実年齢の比、つまり、

IQ=精神年齢(M.A)/実年齢(C.A)*100

であらわされます。比率で表されるため比率IQとも言います。

100をかけていることからもわかるように、平均は100です。ですから、「100より下だから、このくらいの年の人よりは少し出来ないのかなあ」とわかりやすい指標とはいえます。

しかし、問題はその逆。つまり、「100より上だから、優秀だ」という誤った理解が今でも根強いほどに広まってしまいました。

実際は発達の速度を表しているだけであり、そのため、テストを作り上げたビネーも、知能指数より精神年齢と実年齢をちゃんと見るように述べています。このことは、知能テストを考える上で常に留意すべきことです。

さて、このビネー以降もさまざまな知能テストが考え出されています。ここからは今現在使われているものを取り上げていきましょう。

まず、ビネーが作り上げたテストの日本版が「田中ビネー知能検査」です。1947年に登場して以来、過去3回改訂され、今でも用いられています。

問題は1歳級から成人級まで、全部で118問あります。各年齢ごとに問題が組まれており(たとえば、1-3歳なら12問、4-13歳なら4問といった具合)、その問題にはそれぞれ小問が組まれています。この小問に何問正解できるかで、精神年齢の判定を行います。

検査は30分から60分かけて行われ、検査後、知能指数をはじき出します。先ほども述べたように、この知能指数は知的発達水準の指標ですから、100より大きい場合は知的発達が早い、逆に100より小さい場合は知的発達が遅れていると判断します。なお、満15歳以上の人はマニュアルに従って、若干の補正を加えてから計算を行います。

これらは旧来からあるものですが、これ以外にも「ウェクスラー式」という知能テストがあり、これも大変よく利用されます。

ウェクスラー式はビネー式と異なり、問題が年齢ごとではありません。学齢期の子供用にWISC(Wechsler Intelligence Scale for Children)、大人用にWAIS(Wechsler Adult Intelligence Scale)と、テストそのものを分けています。ちなみに現在は、1997年改訂のWISC-3と1990年改訂のWAIS-Rを普通用います。

テストはWISCの場合で12、WAISの場合で11の下位検査に分けられます。ここでいう下位検査とは、いろいろな難易度の同じ種類の問題の事を指します。

下位検査には大きく分けて、「言語性」と「動作性」があり、言語性では知識や数唱、算数が、動作性では絵画完成や積木模様、組み合わせなどが行われます。このとき、検査の実施順序は決められており、実施者はそれに従わなければなりません。

ここで、大人と子供のテストの違いを考えると、子供では言語性の数唱が補助検査なのに対し、それが大人では知能指数の算定に使われます。また、子供では動作性の迷路を使った検査が行われるのに対し、大人ではそれがないこと、そして、さっきの実施順序が大人と子供では異なることも、違いとしてあげられます。

テストはWISCで45分、WAISで60分から90分かかります。そうして知能指数を求めますが、ビネー式とは異なり、偏差IQというものを算出します。これは、年齢が上がるにつれて知能指数が下がっていく比率IQの問題点を解消するためのもので、平均と標準偏差を用いて知能指数を標準化します。

ウェクスラー式の場合、平均を100、標準偏差が15となるように作られていますので、

IQ= x-x bar/s * 15 + 100

という式になります。ここでxは被験者の得点、x barはその得点にあった標準偏差、sはその得点にあった平均を意味します。

また、言語性下位検査から言語性IQを、動作性IQから動作性IQをそれぞれ求めることも出来ます。

このように、いろいろな側面から知的能力を見ることが可能なため、ウェクスラー式は心理臨床などで非常によく用いられます。

これらのほかにも、「ITPA言語学習能力診断検査」や、「K-ABC心理・教育アセスメントバッテリー」といった知能テストがあります。また、今までの知能テストは基本的に1対1で個別に行うものですが、集団で行う知能テストというものも存在します。私も中学生のときに学校で受けた記憶(ってことは、7,8年前?)がありますが、現在では、その結果の資料をどう使うかが不明なため、ほとんど行われることはなく、行われるとしても、知的障害をスクリーニングするなど、用途が限られます。

それに、知能テストは単一で用いるだけでなく、いわゆる「テスト・バッテリー」という形で複数の検査を組み合わせて実施したり、それぞれの検査で出てきた知能指数が不一致な場合は(えてしてそういうことが起きます)、それを解釈するため「掘り下げ検査」を行ったりします。

いずれにしても、知的能力はこのようなテストの結果だけではなく、社会への適応だとか、日常生活の自立度なども考慮に入れて判定します。

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