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発達研究


発達心理学はそれなりに長い歴史を持つ分野です。ただ、今の生涯発達という考え方ではなく、ベースが「人間発達に関する心理学的考え方+それに結びついた方法、たとえばしつけとか育児、教育などの実行」というものでしたので、最初はそんな感じのものでした。

日本を考えると、現在の育児書と大差ないものがすでに1700年代には存在していました。妊娠、出産、乳幼児の扱い方、病気、発育といった面はもちろん、しつけや教育もターゲットとして扱っていたそうです。それだけでなく、成人や老人の精神衛生を扱った本、つまり養生書も存在していました。最近の主流「エイジング」は、すでに存在したわけですね。

本になっていた、ということは、読ませたい側、そしてそれを読みたい側がちゃんといたということで、もちろん学問的研究も医師や儒学者の手によって行われていました(で、そのような人たちがアドバイザーとして本を書いたりしていた)。ただ、今と違って実証的な研究ではありませんでした。

ヨーロッパでも18世紀末までには子供の心理学的特徴を考慮した育児法や生涯発達への関心などが現れています。

当時のトピックを見てみると、年齢関数や発達の記述、ライフコースの多様性や柔軟性への気づき、老年期の機能低下の性質と原因の究明、そしてプラスの変化であるエイジングなどで、今の生涯発達心理学のそれとほとんど変わりません。

これらが19世紀の進歩思想や進化論などと結びついて、学問的な発達心理学の基礎となったといえるでしょう。

では1つずつ細かく見ていきましょう。

「年齢関数 R=f(A)」は、R(発達の指標)とA(年齢の指標)、たとえばビネーの知能検査なんかもその例に漏れないと思うのですが、そういうものから発達を見ようという、非常に代表的な研究課題です。簡単に言ってしまえば「何歳になると〜ができるようになる」といったものが年齢関数の情報であり、20世紀前半の研究はこれを確保することにかなりの力点が置かれました。

今では、その年になったから、できるようになったということしかないので、中身が思いっきり不十分だとされていますが、それでも、基準を使って平均からのズレを見たりするときには年齢関数は使っています。ですから、今後も大事な研究の1分野といえるでしょう。

ちなみに、年齢関数を求めるときは、それが「横断法」によるのか、「縦断法」によるのかで、かなり見方を変えなければなりません。

横断法とは、ある時点で異なる年齢群ごとのデータを集めて、それを比較するやり方です。「今の20代と50代でどのくらい戦争に対する知識が異なるか?」なんていうのがそれ。これで求めた年齢による差には、えてして「出生年コホート」というものによる差が混じっています。

1980年代生まれの人、70年代生まれの人〜なんていう群そのものをコホートといいます。出生年コホートの場合は、生まれた年でそれをとる。これでデータを集めて、そのまんま比較したりすると、生まれた年によって違うはずの身体的発達の差や社会環境などといったものを考慮に入れないゆがんだものになることが多いです。

もう1つの縦断法とは、1人の人を長いこと追いかけて追跡調査するやり方。しかし、これも一概にいいとはいえません。とにかく時間がかかるし、調査終了まで残る人はえてして元気で、積極的な人だし(他の人たちは亡くなったり、連絡が取れなくなったりして落ちてしまう)、結果を一般化できないとか、いろいろあります。

双方いろいろな問題はありますが、うまいこと使って研究をやっています。中には「シアトル縦断研究」のように、1950年代後半から始まって、今でも続いているものもあります。psycho lab.でやってる調査は典型的な横断研究ですね。また、開始時期を組織的にずらした縦断法を繰り返し、横断法と組み合わせとかいう方法も提案されていますので、研究の際には気をつけましょう。

「発達段階」も長いこと考えられてきた重大な研究テーマです。これのベースは「座る→はいはい→歩く」のように発達には順序があるということ。生物学的な発達観に立てば順序は必然であり、特定の機能の発達に順序があることは、成熟に強く規定されたものといえますが、しかし、学習を重視した考え方では、必ずしも順序性は必然ではありません。経験の違いで発達コースは変わりうるからです。

このような「特定機能の発達順序性」をみる研究はかなり行われています。単純かつ確実なのは、対象を縦断法で観察、調査、検査してその変化系列を調べるやり方。とはいえ、縦断法だから、時間がかかる。

そこで、「横断法で推定する」やり方があり、スケーログラム分析というものをします。発達的に低いものから高いものまで、多様性を含む対象群の特定時点での反応パターンを整理、分析し、基準となる反応があったかなかったかでプラスマイナスをつけ、このとき大多数のパターンが属し、それから外れるパターンが極めて少ない人にしか現れなければ、順序が出てくるというやり方です。

普通はあくまで特定の機能だけを取り上げますが、ピアジェとかエリクソンのように機能間の連関パターンを取り上げることもあります。いわば、総合的で、このような順序性のある段階区分を理論に組み込んだものが「発達段階理論」です。

あと、研究でよくあるのが「予測」です。人間はその子が将来どんな子になるのか、それを考えるのが結構好きです。だからそのようなこともよく行われてきました。たとえば、

「乳幼児の認知能力から後の知能を予測できるか?」
「幼児期に攻撃的だと大人になってもそうか?」

もちろんこのようなものは、ラベリング(レッテル貼り)にも結びつくので大変危険ではあるのですが、研究されています。

あと、個体間の特徴だけでなく、環境条件やそれと個体がどう相互作用としているのかとか、いわば、生態学的な研究もあります。遺伝か、環境か、じゃなくて、遺伝も環境も、な立場。最近の主流です。

このように発達心理学ではさまざまなテーマの研究が行われています。

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