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人格障害 Personality disorder.


人格障害とは、人格が大きくゆがむことによって、苦しんだり、社会的に問題が起きている状態をさします。以前は精神病質や病的性格などと言われていたそのほとんどが、これに該当します。

全般的な特徴としては、認知、感情、対人関係、衝動性の制御などの点で、一般からはかなり逸脱した行動パターンを持ち、それが個人的な人間関係でも、社会的な場でも見られます。発症は成人前期、つまり10代後半から30歳くらいまでの間に始まることが多く、それが長期間持続します。

あまりにも多様なタイプがあるので、DSMではまず大分類としてA群、B群、C群の3つに分け、そしてそれぞれのカテゴリーを合計して10種類の人格障害を定義しています。ここでA群とは「行動が一般の社会的規範から外れていて、奇妙で風変わりと捉えられるタイプ」、B群とは「演技的、感情的、移り気な点が特徴なタイプ」、C群とは「不安や恐怖が主な特徴とされるタイプ」とされています。

このうちA群には、妄想を主症状とし強い不信感や疑い深さなどが特徴の「妄想性人格障害」、社会からの遊離や対人関係のまずさ、感情表出の乏しさなどが特徴的な「分裂病質人格障害」、これと名前がよく似ているものの、行動などの点で異なる「分裂病型人格障害」がそれぞれカテゴライズされています。

2つ目のカテゴリーであるB群には、反社会的な行動が目立つ「反社会性人格障害」、今回大きく扱う「境界性人格障害」、芝居がかかった態度や誇張した感情表出などが特徴の「演技性人格障害」、そして、自己評価が極端に高く、他者への嫉妬や傲慢な態度が見られる「自己愛性人格障害」がそれぞれカテゴライズされ、3つ目のカテゴリーであるC群には、自己評価が低く、引きこもりがちな「回避性人格障害」、他者から愛されたいという欲求が過剰な「依存性人格障害」、完全主義的で細部にこだわりすぎる「強迫性人格障害」がカテゴライズされています。

こう名を連ねるだけだと何がなんだかわからないので、それぞれを言葉でまとめてみましょう。

A群
妄想性人格障害…他人が信用できない。皆、私を利用しているんだ(妄想が中心)。
分裂病質人格障害…1人でいるほうがいい(対人関係のなさに不安はない)。私なんか空っぽだ。
分裂病型人格障害…友達はほしいけどできない。みんな変人だと思ってるようだ(周囲の出来事を曲解して起こる被害妄想)。

B群
反社会性人格障害…他人なんか利用するものでしょう。それが悪いとは思わない。
演技性人格障害…いつも注目の的でいたい。お姫様じゃなきゃ(身なりも結構派手)。
自己愛性人格障害…私には才能がある。ただ、それを周りにはわかってもらえないから、結構落ち込む(過剰な自己評価)。

C群
回避性人格障害…周りがどう思ってるか怖い。だから、友達も作らない(親密になるのを避ける)。
依存性人格障害…いつも受身で、人に頼ってしまう。なので、嫌われないように自分を曲げることもある(嫌われないために自分を犠牲にすることがある。たとえば、相手が殴ろうが何しようが、その人から離れたくないということで、それを我慢したりする)。
強迫性人格障害…いつも一所懸命だし、少しでも失敗すると気にかかる。仕事を人には任せられない。

このように人格障害は多岐にわたるわけですが、昨今増えてきているのがB群にカテゴライズされる「境界性人格障害」、別名、ボーダーライン・シンドロームです。

最初にDSMでの定義を見てみましょう。

-DSMにおける「境界性人格障害 borderline personality disorder」の基準-

対人関係や自己像、感情の不安定、著しい衝動性の行動などが成人期早期から見られ、以下のうち5つ、またはそれ以上が示される。
1) 現実、または想像の中で見捨てられることを避けようとする必死の努力(ただし、5)の自殺行為、自傷行為は除く)。
2) 理想化とこき下ろしの両極端の間で揺れ動く不安定で激しい対人関係。
3) 同一性障害: 著名で持続する不安定な自己像、または自己感。
4) 自己を傷つける可能性のある衝動性の行動で、少なくても2つの領域にわたるもの(たとえば、浪費や性的逸脱行為、薬物乱用、無茶食いなど。このとき、5)の自殺行為、自傷行為は除く)。
5) 自殺の行動、そぶり、脅し、または自傷行動の繰り返し(たとえば、手首を切るなど)。
6) 顕著な気分反応性による感情不安定(たとえば、強い不快気分、いらいら、不安が2,3時間続く。ただ、2,3日も続くことはない)。
7) 慢性的な空虚感。
8) 不適切な激しい怒り、また怒りの制御困難(たとえば、いつも何かに怒っているが、その対象は本人にもよくわからない)。
9) 一過性の、ストレスが関連する妄想様観念、または重篤な解離症状。

たくさんの基準がありますが、ここでは具体的な例で考えてみましょう。なお、教科書どおりな記述をしますが、この例は実際のものではなく、フィクションです。

たとえば、ある女性があなたに相談を持ちかけたとします。

その女性は感情の起伏が激しく、些細なことで自分を責め、落ち込むことがあるようで、あなたに話すときも結構感情的です。

彼女は大学を卒業し就職しましたが、職場の人間関係はなかなかうまくいきませんでした。ただ、同僚の中で一人の男性だけは彼女のことを心配し、よく相談にも乗ってくれたようです。

彼女はその男性が好意を持ってくれているんだと思い、自分のほうから積極的にアプローチをしたようです。そのうち、自分も彼にはまってしまい、たとえば、デート(と自分は思っていること)をしても、次の日会社でまた会えるのに、別れるときにはこれで永遠に終わるような気がして、悲しくて仕方ありませんでした。

できればいつまでも関係を続けたい。ところが、彼は結婚もしており子供もいる。関係はうまくはいきませんでした。

別れるだろう。そう思った彼女は、相手の男性の部屋に押しかけ、その場で自分の手首を切ったようです。こうまでして見捨てられないようにと相手にしがみつくのですが、逆にこうまでされた相手は離れていくしかありませんでした。

彼女はそれを機に会社をやめ、友達との人間関係も断ち切りました。しばらくすると、何であんなやつなんかに…と馬鹿らしくなったりして、あんなに夢中だった自分がかわいそうに思えたりもします。その反動か、四六時中何かを食べたりするものの、下剤を飲んだり、最悪、口の中に指を入れて吐き出してしまいます。

もう何もできる状態じゃありませんでした。むなしさが一日を覆っていました。眠れないことも、手首を切ることも、何度もありました。かえって、手首を切ることで不思議と気持ちよかったりもして、それが変でした。

……かなり過激に見えるかもしれませんが、あえて言うなら、これは結構ありそうなパターンです。

境界性人格障害を簡単にまとめてしまえば、「空虚感が慢性的なために、うつ病、自殺念慮、ほかに過食などの制御障害を引き起こすこと」といえます。この裏には自我同一性の混乱や、感情の不安定などが見て取れます。

先ほどの例でもそういうのがかなり見られました。たとえば、一時は好きだった彼のことを、そう思った自分を惨めに思うなんていうくだりは、「理想化とこき下ろし」そのものです。

このような境界性人格障害は、3対1くらいの割合で女性に多く、しかも、うつ病やそのほかの精神科症状と合併することが非常に多いです。そのため、うつ病なのか、境界性人格障害なのかの判断は非常に難しいといえます。

境界性人格障害は、機能不全な対人関係パターンが長年続いている状態です。しかもそれが持続する性格傾向なのです。そのため、遅くとも成人前期(つまり、10代後半から30代くらいの間)までには形として現れてきます。ですから、この障害かどうかを判断するためには、目先の症状にとらわれず、10代のころはどうだったのか、20代はどうだったのかなど、長期的なスパンの情報を集める必要があります。

結果的に境界性人格障害だと思われる場合、治療の対象となります。薬物療法と心理療法、というペアでこの場合も挑みます。

薬は状態によってコントロールします。ですから、抗うつ薬の時もあれば、抗不安薬のときもありますし、抗精神病薬のときもあります。この場合、常に自己破壊行動には気をつけなければなりません。たとえば、よく眠れるようにと睡眠薬を出しても、それを自殺の道具に使われたのではどうしようもないのです。薬の管理は家族に任せるなど、きめ細やかな対処が求められます。

また心理療法は認知・行動療法がベースとなります。特に、過去はあまりほじくり返さない上で、具体的な問題を考えることなどは治療にはいい心理アプローチとなりえます。

人格障害は全般的にある程度長期的な治療が必要です。とはいえ、何の対応策もないわけではありません。しっかりと粘り強くやっていけば、いつかは回復します。

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