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コミュニティ援助


コミュニティ援助は4、50年前に臨床心理学の世界で起きた、ある意味革命です。

それまでの心理臨床は「一対一」という比較的小さな関係の中で行われていました。今でも、カウンセリングや心理療法はこういう面があります。

これに対して「コミュニティ community」は、社会学によって、「人々が生き、それぞれの生き方を尊重しながら主体的に働きかけている生活環境システム」と定義づけされます。この考えをもとととして「コミュニティ心理学 community psychology」では、問題を抱えるクライアントを生活しているその地域、社会、組織の中で理解し、そしてその中で援助していく方策をとっていきます。

つまり、「一対多」とか「多対多」のような関係の中で、クライアントのことを考えていくのです。

さらに、コミュニティ援助の中には「予防 prevention」という考え方が導入されています。この「予防」という概念は、医学の世界では当たり前ですが、「疾病の発生そのものを防ぐ1次予防」「発症後の長期化や悪化を防ぐ2次予防」そして、「再発を防ぐ3次予防」によって構成されます。

このような考えに基づく組織が、たとえば、セルフケアグループ(自助グループ)や家族会です。その機関自体が3次予防を担いますし、病気の情報を一般の人に知らしめるなどの活動を行っていれば、1次予防に働きかけている面もあると言えます。

「スクール・カウンセラー」もそのような流れの中に位置づけられるでしょう。日本では1997年から導入され、週2日程度、クライアント本人だけではなく、親や教員などもターゲットとして、学校全体のメンタルヘルス能力を上げていくよう働きます。

このようにコミュニティ援助では、「クライアントだけ」という視点ではないことが重要です。人間を全体として捉えるだけでなく、起こっている問題を生活の中で捉える。その上で援助していくのが大事なポイントなのです。

だから、他領域の専門家、たとえば、学校なら教員ですが、そういう協力者も大切にしていきます。場を改善したり、社会システムを構築していったり、必要なら「コンサルテーション consultation」と言って、その専門家が抱えているクライアントの問題をちゃんと解決できるよう、アドバイスしたりもします(これは「コンサルテーション・リエゾン精神医学 consultation-liaison psychiatry」との関連が深い)。

これにはいろいろな意味があります。心理臨床の専門家を「コンサルタント consaltant」、異領域の専門家を「コンサルティ consaltee」としてアドバイスしていくことで、例えば、似たような場面がまた起きたときに、今度はコンサルティだけでも素早く十分な対応できるようになることが期待できますし、もし、そのコンサルティだけでは対応できないと思えるなら、専門機関を紹介することで、よりクライアントにあったフォローが出来るようにもなります。

コンサルテーションはそのような性格のものですので、コンサルティの自由意志で開始され、コンサルティの現場で行うことが求められます。コンサルタントはあくまで部外者であり、コンサルティとの間に上下関係があったり、利害関係があってはいけません。これはカウンセリングにおいて、学校の先生は生徒のカウンセラーになることが出来ないのと同じ理由です。

また、コンサルティ自身が何らかの個人的問題を抱えている場合、それに共感しても、深入りしない姿勢がコンサルタントには求められます。あくまで、コンサルティに何が出来るのか、それをアドバイスするのがコンサルテーションだからです。

さて、コミュニティ援助はこれだけにとどまりません。たとえば「危機介入 crisis intervention」という自分の対処能力を超えるような問題が起きて、個人の崩壊すら起きかねないときに、それに対応するようなことも求められてきます。

日本全国にある「いのちの電話」はその代表例です。この電話相談はもともと、イギリスで自殺予防を目的として始まりました。相談員はボランティアで、ちゃんと研修を積んだ上で実践の場に立っています。

危機介入では迅速かつ効果的なものが求められます。また、危機状態は次のステップに進むための通過点、つまり、ポジティブな側面がありますから、「クライアントの成長可能性 growth promoting potential」を信頼した上で行われることが大前提です。

アセスメントをして、何をするか計画を立て、ちゃんと見通しを話した上で、実行し評価する、と言った点は心理臨床と共通します。ただ、こういう状態にある人は、リソース(resource. 利用可能な資源)があってもそれを利用することができないことが多く、誰でも気軽に利用できるようなものが必要です。

最近では電話では話せないけれど、ネット上の掲示板やメールでなら話せる、というクライアントが増えてきていますから、今後はさまざまな介入の方法が必要になってくることでしょう。

ちなみにこのようなリソースがあることを一般の人に教育することも、コミュニティ援助のひとつです。

このようなコミュニティ援助はこれからの時代、大変重要なものになると思って間違いありません。皆さんももし興味がおありなら、手を伸ばしてみるといいのではないでしょうか。

さて、「臨床心理学」はここでおしまいです。今後は「カウセリング」や「児童臨床」などという、ちょっと細かい領域のほうに話が移っていきます。そちらとあわせて、より心理臨床について深く考えていっていただければ、と思います。

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