心理学で第102回医師国家試験の問題を解いてみる。(08年5月)
厚生労働省のサイトに今年2月に行われた医師国家試験の問題が公開されているのでありまして、ほほう、と今回はそこで出題されている設問を解いてみようではないか、という試みをしてみます。もちろん、知識の基本となるものが全く違うのですが、心理臨床をかじった人であれば、結構解ける+必要とされる知識が多いので、試してはみませんか?
医師国家試験は3日間もやる試験だけあって、それはもう尋常じゃない数の設問数があるのですが、その中から精神科領域の問題だけを引っこ抜いてみました。また、精神科領域の問題の中でも、臨床心理学と教養レベルの精神医学の知識があれば解けるものだけを力技で選んであります。
解説はそれぞれの設問ごとにしますが、大して詳しくは書かない(心理学レベルでそこまで必要ない)ので、予めご容赦を。
[A問題]
5. 統合失調症で正しいのはどれか。2つ選べ。
- モノアミンが関与している
- 大脳に炎症性変化が存在する
- 陰性症状に対する薬物効果は高い
- 発祥初期の積極的な治療的介入が重要である
- 有病率は人口10万あたり約10である
心理学レベルでは、aからcはわからなくて構わない。有病率は押さえたいところで、国を問わず0.5〜2%。100人に1人以上と思うと、答えはa, d
6. 強迫性障害について正しいのはどれか
- させられ(作為)体験が並存する
- 強迫観念の内容は了解不能である
- 生活機能が傷害されることは少ない
- 第一選択薬は非定型抗精神病薬である
- 患者は強迫行為を不合理であると認識している
言わずもがな、答えはe
7. 注意欠陥多動性障害(ADHD)について正しいのはどれか
- 小児の約0.5%にみられる
- 女児に多い
- 知的障害が合併する
- 脳内ドパミン神経系の異常が見られる
- 副腎皮質ステロイド薬が有効である
a, b, cが除外できれば、心理学レベルではオーケー。答えはd
24. 65歳の女性。「嫁が財布を取った」と言っては騒ぐと家族に伴われて来院した。家族によれば、患者は最近わがままで短気になり、物忘れも目立つようになったと言う。財布は家族が一緒に探すと、机の引き出しの中に見つかったりする。患者は憮然として、「嫁は意地悪だ」と言う。
診断に有用な検査はどれか。
- Rorshachテスト
- Minnesota多面人格検査(MMPI)
- Mini-Mental State Examination(MMSE)
- 簡易精神症状評価尺度[Brief Psychiatric Rating Scale(BPRS)]
- Hamilton うつ病評価尺度
認知症に有用な検査はどれか?という問題。「今年は何年ですか?」のような質問を出すのがMMSEなので、正解はc
26. 30歳の男性。交通外傷後遺症のため、妻に付き添われた来院した。半年前、自動車の助手席に座っていたところ、その車が他車と正面衝突し、頭部を強くフロントガラスに打ち付けて意識を失った。3日間昏睡状態であったが徐々に意識が回復し、3ヵ月後に退院した。その後、在宅療養をしている。神経学的には、四肢筋力、表在・深部感覚、四肢の協調運動及び深部腱反射に異常はない。改定長谷川式簡易知的機能評価スケールで28/30、Wechsler成人知能検査で全IQは100、言語性IQは98、動作性IQは102である。頭部MRIのT2強調水平断像と正中矢状断像を示す(注:前頭葉が白く映し出されている)。
この患者にみられるのはどれか。
- 失行
- 情動障害
- 同名半盲
- 半側空間失認
- 二点識別覚障害
「脳の局在性」の問題。あれこれあるけれど、(注)に書いてある一言で答えは出せる。前頭葉が白く映し出される=そこに血液か何かがある=前頭葉がやられている、なので、正解はb
27. 35歳の男性。疲労感と意欲低下とを主訴に妻に伴われて来院した。3ヶ月前に職場で配置転換があったころから、仕事が向いていないのではないかと悩み始めた。疲労感と食欲不振とを自覚し、体重が3kgほど減少した。寝つきはよいが夜中に目覚めてしまう。家にいるときも思い悩んでばかりいて、すっかり笑顔が消えてしまった。本人は、原因は職場にあり、この状態の解決には辞職するしかないと訴える。
治療薬でもっとも適切なのはどれか。
- 睡眠薬
- 抗うつ薬
- 抗不安薬
- 抗精神病薬
- 抗てんかん薬
薬の話はほんとはどうでもよくて、この患者さんが何に思えるか?というのを試したい。正解はb
28. 32歳の男性。妻と子供とに暴言を吐くため、見かねた両親に伴われて来院した。高校2年生のとき、特にきっかけもなく元気がなくなり、2ヶ月間学校を休んだことがある。そのときは特に治療を受けずに回復し、その後は順調であった。3ヶ月前から、職場で上司や同僚と口論することが増え、注意を受けると不機嫌になり、反抗的な態度を示すようになった。夜間や休日の外出が増え、浪費が著しい。普段は上機嫌で饒舌だが、ちょっとしたことでいらいらして悪態をつく。妻が浪費を注意すると激昂して暴言を吐く。幼い子供が泣き止まないと怒鳴りつける。もともとは機会飲酒程度であったが、最近は酒量が増えた。本人は、心身の不調はまったく自覚しておらず、両親の懇願に応じてしぶしぶ受診したと言う。
考えられるのはどれか。
- 人格障害
- 躁うつ病
- 統合失調症
- アルコール依存症
- 注意欠陥多動性障害(ADHD)
答えはb。これは選択肢をどう除外するかがポイント。
29. 27歳の女性。一転を見つめ何事にも無関心なのを心配した夫に伴われて来院した。5週前に、帰宅途中に性的暴行を受けた。それ以後家から出ることができず会社を休んでいる。夜もまったく眠れず、食欲もなく、急激に体重が減少した。夫が心配して話しかけるが返事をせず、ぼおっと一転を見つめるのみである。
考えられるのはどれか。
- 適応障害
- 強迫性障害
- 社会不安障害
- 全般性不安障害
- 外傷後ストレス障害(PTSD)
典型的なストレスヒストリーなので、eだとすぐに導ける。選択肢の中に急性ストレス障害があるとややこしいが、その時は「5週前」の一言で、やっぱりeを選択できる。
30. 13歳の男子。頭痛を主訴に来院した。1ヶ月前からしばしば頭痛が出現し、投稿できないこともあった。頭痛は、頭全体が締め付けられるような痛みであるが、1時間程度で軽減した。痛みの出現する時期は不定であり、前兆はなかった。発熱は認めないが、嘔気を伴うことがあった。1ヶ月前、症状には変化がなかった。血液所見:赤血球510万、白血球3800、血小板17万。CRP0.2mg/dl。頭部単純CTに異常を認めない。
初回診察時の対応として適切でないのはどれか。
- 血圧を測定する
- 心理検査を行う。
- 眼科的異常がないか検査する
- 耳鼻科的異常がないか検査する
- 登校しないように指示する
この問題は精神的な問題から来る頭痛にどう対処するか、というもの。なので、eだけ選択肢が変。正解はe
31. 2歳の女児。右下腿痛のため母親に連れられて救急外来を受診した。3時間前に階段から落ち、様子を見ていたが痛がるために連れてきたと言う。意識は清明。身長81cm、体重9.0kg。医師と目を合わせず、診察中かなり痛そうにするが、こらえて声を出さない。両下腿の皮膚に数か所、小さな丸い褐色の瘢痕がある。右硬いには腫脹があるが、足部の循環と運動とは良好である。右下肢のエックス線単純写真で大腿骨と脛骨とにらせん骨折があり、大腿骨には仮骨がみられる。胸部エックス線で癒合した肋骨骨折を認める。当直医は右下肢にシーネを当てて骨折部を保護した。
対応として適切なのはどれか。
- 入院させ、患児が精神的に落ち着くまで母親に付き添ってもらう。
- 入院させ、脛骨骨折が癒合するまで右下肢の直達牽引を行う。
- 入院させ、全身麻酔下に脛骨の骨接合術を行う。
- 入院させ、児童相談所に届ける。
- 患肢拳上を指示して帰宅させる。
これは臨床心理と直接は関係しないけど、ありそうなのでピック。右下腿の話をしているのに、「両下腿の皮膚に〜」と出てくる辺りで虐待が疑えるケース。正解はd
[B問題]
20 認知症の高齢者の介護で正しいのはどれか。2つ選べ。
- 情報は簡潔に伝える
- 目を合わせないで話す
- 間違ったらその場で叱る
- 生活環境を大きく変える
- 規則正しい生活を指導する
正解はa, e
21 精神障害者のリハビリテーションで正しいのはどれか
- 効果は一時的である
- 就労支援は含まれない
- 作業療法は入院中には行わない
- 薬物療法と併用されることが多い
- デイケアは外来患者には行わない
正解はd
42. 29歳の女性。不安と不眠とを主訴に来院した。2年前に結婚した。それまでやさしく見えた夫は家庭内でちょっとしたことに激昂し、しばしば殴られ体中があざだらけになった。とうとう耐え切れず、半年前から別居している。しかし、別居後も別居前の生活を思い出して寝付けず、酒と睡眠薬とに頼るようになった。最近、夫が自分の職場に出入りする可能性が生じた。それを知って以来、体重が激減し、睡眠薬の量が増えてきた。電話の音にびくっとし、仕事に出る気力もなくなった。入院を希望している。
入院治療に当たり考慮すべき法律はどれか。2つ選べ。
- 生活保護法
- 労働安全衛生法
- 麻薬及び向精神薬取締法
- 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)
- 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(DV法)
正解はd, e
50. 2歳6ヶ月の男児。発達の遅れを心配して来院した。身長89cm、体重13.5kg。手すりにつかまって階段を下りるが、片足飛びはできない。積み木を5個積むが、まねて丸を描くことはできない。簡単な洋服は自分で着るが、一人で顔は洗えない。パパ、まま、ワンワンは言うが「○○は××」という文では話さない。ごっこあそびをするがうんちは知らせない。母親を識別する。
遅れているのはどれか。
- 身体発育
- 粗大運動
- 微細運動
- 言語
- 社会性
正解はd
[E問題]
7. 運動障害はなく、全般的な知能の低下は顕著ではないが、図形の模写ができなくなった。
障害部位はどれか。
- 前頭葉
- 頭頂葉
- 側頭葉
- 後頭葉
- 視床
これまた「脳の局在性」の問題。正解はb
22. 急性ストレスに伴う失神時にみられる身体反応はどれか。2つ選べ。
- 冷汗
- 低血糖
- 血圧上昇
- 顔面紅潮
- 脈拍数減少
ジェットコースターとか乗った後を考えればよい。正解はa, e
51. 25歳の男性。大学院に在籍し毎日研究に励んでいるが、ここ半年思うようにはかどらずあせっていた。最近、何をやっても実感がわかず、自分の体さえ自分のものであるという感覚がない。町並みも人々も妙によそよそしく現実感がないように感じられる。
症状はどれか。
- 錯覚
- 妄想
- 離人
- 両価性
- 感情鈍麻
本文中に「自分の体さえ〜」と定義っぽいことがそのまんま書いてある。正解はc
57. 3歳の男児。軽い咳を主訴に来院した。診察室に入ると、じっとせずに室内を歩き回っている。
対応として適切なのはどれか。
- 行動を観察する
- 精神科に受診科を変更させる
- 母親に強く抱かせて座らせる
- 本日は診察できないと母親に説明する
- 子供のしつけについて母親を指導する
何かをする前に、とりあえず見るの基本。正解はa
[F問題]
42歳の女性。不眠と頭痛とを主訴に来院した。
現病歴:半年前に職場で管理職に昇進したころから不眠が出現した。疲れやすくて食欲もなく、趣味の社交ダンスもやめてしまった。この1ヶ月は、夕方になると鈍い痛みを高等部に感じ仕事に集中できなかった。部下に迷惑をかけているので思い切って仕事をやめようかとも考えた。子供はおらず夫と二人暮しである。心配した夫に病院にいくように強く勧められたため思い切って来院した。
既往歴:特記すべきことはない。
家族歴:母親が糖尿病で通院治療中。
現症:意識は清明。身長163cm、体重47kg。脈拍72/分、整。血圧104/72mmHg。(以下略)
28. 医師が医療面接でこの患者にかける言葉の中で、共感的態度を表しているのはどれか。
- 「職場の人間関係がストレスなのですね。私も経験があります」
- 「睡眠不足だと頭も痛くなりますし集中力も落ちますよね」
- 「仕事をやめようと思うほど支障をきたしているのですね」
- 「子供さんがいない生活はずいぶん寂しいでしょうね」
- 「この半年の間に一度も病院に行っていないのですか」
29. 解釈モデルを訪ねる質問はどれか
- 「以前と比べて体重が減ってきてはいませんか」
- 「死んだほうがましだと思うことはありませんか」
- 「普段定期的に飲んでいるお薬があったら教えてください」
- 「何かご質問があるようでしたらおっしゃってください」
- 「どうして眠れなくなったのか思い当たることはありますか」
(以下略)となっているところには実際には血液検査の結果とかがある。しかし、見るまでもなく精神的な問題。解釈モデルとは、患者自身がどう考えているかのこと。なので、正解は28がc、29がe
[G問題]
6 正しいのはどれか。2つ選べ。
- 両価性はうつ病に特徴的である
- 言葉のサラダは思路障害で見られる
- 緊張病症候群は不安障害で見られる
- korsakoff症候群では作話がみられる
- 感情失禁は統合失調症に特徴的である
これを心理臨床の問題に入れるのは難しい気がするけど、とりあえず。正解はb, e
58. 21歳の女性。単身生活をして大学に通っていたが、「皆が自分のうわさをする」、「学校全体がグルになって意地悪する」などと言って、1年前に実家に帰ってきた。その後、近所の人が自分の悪口を言うと訴え、独り言が目立つようになったため、両親に伴われ半年前に来院した。外来での薬物療法によて、独り言はすっかりなくなり、近所の人のことも気にしなくなった。しかし、だんだん生活がルーズになり、明け方まで起きて昼まで寝ていることが多くなった。両親は復学を期待しているが、本人はその気になれない。体重増加と朝起床しにくいのは、薬の副作用ではないかと気にしている。
方針として最も適切なのはどれか。
- 早期復学を勧める。
- 薬物療法を中止する
- デイケア参加を勧める
- 入院治療に切り替える
- グループホーム入所を勧める
「薬の副作用では」などの言葉に惑わされてはいけない。正解はc
60. 32歳の女性。1年前に夫婦げんかの最中に動機がひどくなり、息が苦しくなり、気が遠くなり、体が弓なりの緊張状態となって近医で処置を受けた。その後、同様の発作の頻度と持続時間とが増加した。最近では夫婦仲も冷えて離婚話も出てきたが、その話が出るたびに発作を繰り返し、外来受診をしていた。身体的異常はない。
治療として適切なのはどれか
- 精神療法
- 抗精神病薬投与
- 電気けいれん療法
- 抗けいれん病薬投与
- 生活技能訓練[social skills training(SST)]
心理臨床的にはaかdで判断する。正解はa
21歳の男性。「就職など、将来のことが心配である」という訴えで来院した。
現病歴:大学卒業を控え、就職活動でいろいろな企業の面接を受けた。しかし面接担当者の前では恐怖感があり声が出なかった。
出生・発達歴:在胎38週、自然分娩で出生した。手先は不器用であったが、言語発達の遅れはなかった。幼小児期は周りの人と視線が合わず、一人遊びが多かった。小学校では、プロ野球選手の背番号や経歴について非常に興味を持ち「プロ野球博士」と言われていた。小学校、中学校、高校では運動が苦手で、いじめられたり、からかわれたりすることが多かった。その後現役で希望の大学の工学部に入学した。友達は少なく恋愛経験もない。
既往歴:特記すべきことはない。
現症:意識は清明。身長172cm、体重55kg。体温36.1℃。脈拍76/分、整。血圧120/78mmHg。診察室では不安な様子で下を向き視線を合わさない。
64 この患者に認められるのはどれか。2つ選べ。
- 知能障害
- 睡眠障害
- 記憶障害
- 社会性の障害
- 関心・行動の制限
65 診断にもっとも有用な検査はどれか
- 心理検査
- 脳波検査
- 脳脊髄液検査
- 脳SPECT
- 頭部単純MRI
66 最も考えられるのはどれか
- 行為障害
- 小児自閉症
- 統合失調症
- Asperger症候群
- 注意欠陥多動性障害(ADHD)
「博士」と出てきた時点で、アスペルガー症候群に絞り込む。正解は64がd, e、65がa、66がd
そんなわけで、以上でございます。精神科領域の問題は実はそんなに難しくない。臨床心理士あたりを目指されている方は、ぜひぜひ押させてみてください。
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